遺言書を作成するとき、財産の分け方だけでなく、家族への想いや、なぜその内容にしたのかを書き添えることがあります。
この部分を 付言事項(ふげんじこう) といいます。
たとえば、
「長女にはこれまで介護で大変世話になったので、多めに財産を残したい」
「妻が安心して生活できるよう、自宅は妻に相続させたい」
「兄弟姉妹で争わず、仲良く過ごしてほしい」
といった内容です。
遺言書は、亡くなった方の最終的な意思を示す、とても大切な書面です。
しかし、遺言書に書いた内容すべてが、法律上の効力を持つわけではありません。
付言事項とは、家族へのメッセージ
遺言書には、法律上の効力が認められる内容と、法律上の効力まではない内容があります。
🌷法律上の効力が認められるもの
- 誰にどの財産を相続させるか
- 遺言執行者を誰にするか
- 祭祀を主宰する人を誰にするか
一方で、家族への感謝の気持ちや、遺言内容を決めた理由、今後こうしてほしいという希望は、一般的には付言事項とされます。遺言として法的拘束力が発生する事項は限定されており、付言事項そのものには法的拘束力はありません。
つまり、付言事項は、法律で相続人を強制するものではなく、遺言者の想いを伝えるためのメッセージです。
「遺留分を請求しないで」と書けば請求できなくなる?
よく問題になるのが、遺留分との関係です。
たとえば、遺言書に次のような付言事項を書いたとします。
「長男に全財産を相続させる。長女には申し訳ないが、遺留分の請求はしないでほしい。」
このように書いたとしても、それだけで長女の遺留分侵害額請求権が消えるわけではありません。
遺留分とは、一定の相続人に認められている最低限の取り分です。
民法上、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められており、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1を基準として計算されます。
そして、遺留分を侵害する遺言があったとしても、その遺言が無効になるわけではありません。
ただし、遺留分権利者が遺留分侵害額請求をした場合には、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。
したがって、付言事項に
「遺留分を請求しないでほしい」
と書いても、それはあくまでお願いです。
相続人が遺留分侵害額請求をすること自体を、付言事項だけで止めることはできません。
それでも付言事項を書く意味はある
では、付言事項は書いても意味がないのでしょうか。
決してそうではありません。
付言事項には法的効力はありませんが、相続人の気持ちに大きく影響することがあります。
たとえば、理由が何も書かれていない遺言書を見た相続人は、
「なぜ自分の取り分が少ないのか」
「自分は大切に思われていなかったのか」
「他の相続人だけが得をしているのではないか」
と感じてしまうことがあります。
一方で、付言事項に、遺言者の考えや家族への感謝、財産の分け方を決めた理由が丁寧に書かれていれば、相続人が気持ちの整理をしやすくなることがあります。
特に、特定の相続人に多く財産を残す場合には、なぜそのような内容にしたのかを付言事項で説明しておくことが大切です。
付言事項の文例
たとえば、次のような書き方が考えられます。
私は、妻〇〇がこれまで長年にわたり家庭を支え、私の生活を支えてくれたことに深く感謝しています。
私の亡き後も、妻〇〇が安心して生活を続けられるよう、自宅と預貯金の多くを妻〇〇に相続させる内容としました。
子どもたちにはそれぞれ思うところがあるかもしれませんが、私の考えを理解し、できる限り円満に手続きを進めてくれることを願っています。
このような付言事項を書いても、遺留分侵害額請求を法的に禁止することはできません。
しかし、遺言者の想いが伝わることで、相続人同士の感情的な対立をやわらげるきっかけになることがあります。
遺留分への配慮も大切
付言事項は大切ですが、付言事項だけで相続トラブルを完全に防げるわけではありません。
遺留分を侵害する可能性がある内容の遺言を作る場合には、
・遺留分に配慮した財産配分にする
・生命保険や預貯金など、金銭で支払いやすい財産を残す
・なぜその内容にしたのかを付言事項で説明する
・必要に応じて専門家に相談する
といった準備が重要です。
なお、相続開始前に遺留分を放棄してもらうには、家庭裁判所の許可が必要です。単に「遺留分を放棄する」と約束しただけでは、当然に効力が生じるわけではありません。
まとめ
遺言書は、亡くなった方の意思を示す大切な書面です。
しかし、遺言書に書いた内容すべてが法律上の効力を持つわけではありません。
付言事項は、法的効力はありませんが、家族への想いや、財産の分け方を決めた理由を伝えるためのものです。
一方で、付言事項に「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、それだけで遺留分侵害額請求を防ぐことはできません。
遺言書を作成するときは、法律上効力のある部分と、気持ちを伝える付言事項の役割を分けて考えることが大切です。
円満な相続のためには、遺言内容そのものを整えることと、付言事項で想いを伝えることの両方が大切です。


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